ジュライサークル。この名前にピンとくる人は、たぶんかなりのタイ好きだと思います。
80年代から90年代にかけて、バンコクのチャイナタウンにあるこのロータリーの周りには安宿が密集していて、短期の旅行者から何年も居着いてしまった人まで、日本人でごった返していたそうです。僕はその世代ではないので当時をまったく知りません。ただ、この界隈を舞台にした本をKindleで何冊か読んでいるうちに、どうしてもこの目で見たくなってしまいました。
そのジュライサークルの一角にあった台北大旅社という古いホテルが、W22ブラサリという名前でリニューアルしていると聞いて、雰囲気だけでも味わおうと泊まってきた記録です。
先に伝えておきたいこと
W22ブラサリは、旧台北大旅社の建物を骨格ごと使ったチャイナタウンのホテル。MRTワットマンコン駅から徒歩5分ほどで、ヤワラート散策の拠点としてかなり強いです。部屋そのものは割り切り型ですが、吹き抜けや屋上まで含めた「建物の面白さ」でお釣りがきます。ジュライサークルの空気を感じたい人には、今のところここが唯一の選択肢に近いはずです。
僕が泊まったのはMRTの新駅が開通した直後で、記事を書き直している今との間にはそれなりの時間が空いています。そこで、交通や周辺の状況は2026年時点で調べ直したものに差し替えました。ここ数年で変わった部分がけっこう大きいので、まずその話からいきます。
ヤワラートは「行きにくい街」ではなくなった
僕が初めてバンコクに来たのは2012年で、当時のMRT地下鉄はフアランポーン駅が終点でした。ヤワラートに行くには、そこから10分ほど歩くか、タクシーかバスを使うしかない。チャイナタウンはずっと「近いのに面倒な場所」だったんです。
それが2019年7月にフアランポーンから先の区間が動き出し、チャイナタウンのど真ん中にワットマンコン駅ができました。9月末に正式な有料運行が始まるまでは無料開放されていて、当時はフアランポーン駅でいちど降りて反対側の電車に乗り換える必要がありました。僕が泊まったのはちょうどその時期です。
その後の変化がなかなか大きい。2019年12月に4駅が加わってブルーラインはタイ初の環状線になり、2020年3月からは乗り換えなしの直通運転になりました。今は全長47km・38駅で、ぐるっと一周つながっています。
| 項目 | 僕が泊まった2019年 | 2026年の状況 |
|---|---|---|
| ワットマンコン駅へのアクセス | フアランポーンで乗り換えが必要 | 乗り換えなしの直通 |
| ブルーライン | 延伸したばかりで一部が無料開放 | 環状線として全線運行(47km・38駅) |
| 都市鉄道の運賃 | 距離に応じた運賃 | 距離制はそのまま。2025年10月からタイ国民ID保有者限定の20バーツ均一運賃も導入(旅行者は対象外) |
| フアランポーン駅 | バンコクの中央駅 | 2023年1月に中央駅の座を譲り、近郊列車が中心 |
※運賃制度は対象路線や条件が見直されることがあります。行く前に最新の案内を確認してください。
長距離列車に乗るつもりでフアランポーンへ向かうと空振りする、というのが今のバンコクです。北部線や南部線の特急・急行はクルンテープ・アピワット中央駅(バンスー)に移っていて、フアランポーンに残っているのは近郊の普通列車が中心。駅舎そのものは残っていて中も見られるので、鉄道好きなら散策ついでに寄る場所、くらいの位置づけになりました。
バンコクの移動手段をひととおり整理した話はバンコクの交通事情の記事にまとめてあります。
駅を出て最初に食べたのは、路地のバミー屋だった
ワットマンコン駅にはヤワラート通り側とチャルンクルン通り側の出口があって、ホテルへはチャルンクルン通り側から出ます。

この出口を見回していて思わず声が出ました。個人的にバンコク最強だと思っているバミー(タイのラーメン)の店、バミージャップガンが目の前にあったんです。チャルンクルン通りのソイ23の路地にある、木の長テーブルが並んだ古い店です。
ここは普通のバミー屋の倍以上の量が出てくるのに、並盛り40バーツ、大盛りでも50バーツ。ガイドブックにも載る有名店なのに、以前は行くのが面倒だったせいかいつ行っても空いていました。それが新駅効果で、僕が行ったときは見たことがないくらい混んでいて驚いた記憶があります。
物価がどんどん上がっているバンコクで、この値段が今も据え置かれているのはちょっとした奇跡だと思います。とはいえ改定される可能性はあるので、実際の金額は現地の貼り紙で確かめてください。
チャイナタウン以外のバンコク飯の話はアーノーズ本店の記事にも書いています。
ジュライサークルまでは、駅から歩いて5、6分
腹を満たしてからホテルまでは歩きました。シーロムやスクンビットみたいに再開発が進んだエリアと違って、この辺りは古い建物がそのまま残っています。時代に取り残されている感じが強くて、それがかえって気持ちいい。
歩いているうちに見えてくるのがジュライサークルです。ロータリーの真ん中に小さな公園があって、昔はここに滞在中の日本人がたむろしていたと聞きます。今はその面影はまったくありません。
ジュライサークルという場所(2026年時点)
タイ語ではWongwian 22 Karakadakhom、英語では22 July Circle。マイトリーチット通り・サンティパープ通り・ミットラパン通りが交わるロータリーで、行政区分ではポムプラープサットループサイ区にあたります。1918年1月24日、ラーマ6世の意向でタイの第一次世界大戦参戦を記念して造られたもの。フアランポーン駅からは徒歩10分ほどで、ヤワラート通りにもつながっています。
そして、ロータリーから少し入ったところに立っているのが、あの伝説の安宿ジュライホテルの跡です。1995年に閉鎖されてから、建物はそのまま放置されてきました。
現在も取り壊されてはいません。老朽化はかなり進んでいるものの、1階部分では複数の店が普通に営業しているそうです。廃墟がそのまま街に組み込まれている感じで、独特の景色になっています。
台北大旅社の骨格が、そのまま残っている
ジュライホテルのある通りを曲がってすぐ、周りが古い建物ばかりのなかに一軒だけピカピカの外観が現れます。これがW22ブラサリです。
このホテルは台北大旅社の躯体を活かして造られていて、あちこちに旧ホテルの名残があります。

いちばん分かりやすいのが建物の中心を貫く吹き抜けで、これは台北大旅社の時代からあったものだそうです。もうひとつ、配管がむき出しになった廊下。もちろん当時より格段にきれいになっていますが、僕が本で見た写真の雰囲気と重なる部分があって、廊下を歩きながら地味に感動していました。
ロビーは広くて明るく、想像していたより洒落ています。ロビー階にはCork and Forkというレストラン兼ラウンジがあって、朝食もここ。2階にはコインランドリーを見に行ったつもりがビリヤード台があって、しかも無料で使えました。会議室やコーヒーメーカーも置いてあって、共有スペースは値段のわりに充実しています。
W22ブラサリの基本情報(2026年時点)
住所: 422 Mittphan Road, Pomprab, Pomprabsattrupai, Bangkok 10100/客室数: 123室/最寄り: MRTブルーライン「ワットマンコン」駅から徒歩約5分(およそ0.5km)/館内: 7層の吹き抜けアトリウム、ロビー階のレストラン兼ラウンジ、ルーフトップバー、コインランドリー、共有スペース/公式サイトの長期滞在パッケージは週7,999バーツから(朝食込)、月36,000バーツから。1泊料金は時期で動くので予約サイトで確認を。
長めに滞在する前提なら、この週・月単位のパッケージはかなり効いてきます。バンコクで腰を据えて過ごすときの費用感はバンコクでノマド生活をした話にも書きました。
部屋は割り切り型。ここは期待しないほうがいい
館内の面白さに対して、客室はいい意味でも悪い意味でも普通です。
僕の部屋にはテレビ、冷蔵庫、金庫、無料の水、ドライヤーが揃っていました。ベッドはシングルを2つくっつけたダブルで、マットレスは硬すぎず柔らかすぎず、寝心地に不満はなかったです。
問題はバスルームで、ここは事前に知っておいたほうがいい部分があります。
泊まる前に知っておきたい割り切りポイント
バスタブはなくシャワーとトイレのみ。歯ブラシや髭剃りのアメニティも置いていません。シャンプーはボディソープ一体型のものだけなので、髪にこだわる人は近くのコンビニで調達しておくのが無難です。3つ星クラスの価格帯だと考えれば妥当な線ですが、期待して行くとがっかりします。
チェックしておくとよさそうな点をまとめておきます。
- バスタブなし。湯船に浸かりたい人には向かない
- 歯ブラシ・髭剃りは持参するかコンビニで買う
- 館内のレストランは部屋付けができない場合がある。現金かカードを持って降りる
- 周辺は古い建物が多く、夜は静か。にぎやかさを求めるエリアではない
- 長期で泊まるなら公式サイトの週・月パッケージを先に確認する
僕が泊まったのは最上階の6階でした。窓の外を見ると、目の前にジュライホテルの廃墟。そしてその奥に、今のバンコクを象徴するシーロムのビル群がそびえています。過去と現在が一枚の絵に収まっている感じで、この景色はここでしか見られないと思います。
屋上には、想像していなかったルーフトップバーがあった
エレベーターを降りたときから気になっていたものがありました。青いネオンに照らされた階段が、上へ伸びているんです。

登ってみたら屋上に出ました。ジュライサークルのホテルに屋上バーがあるとは考えてもいなかったので、これは完全に不意打ちでした。台北大旅社の時代には間違いなくなかったはずです。
建物自体はそこまで高くありません。ただ、ヤワラート一帯には高い建物が少ないので、屋上に上がるだけで視界がぱっと開けます。屋根のある席で一杯やりながら眼下のジュライホテルを眺めていると、この街が積み重ねてきた時間みたいなものが、なんとなく分かった気になりました。
泊まる前に迷いそうなこと
ジュライサークルって今も日本人街なの?
いいえ。80年代から90年代の安宿はすでになくなっていて、日本人はほとんどいません。今はチャイナタウンの古い街並みが残る一角、という位置づけです。当時の空気を探しに行く場所であって、日本語が通じる場所ではありません。
ジュライホテルの建物は今も見られる?
2025年時点でも取り壊されずに残っています。老朽化は進んでいますが、1階には店舗が入って営業しているとのこと。ただし個人の所有物なので、外から眺めるだけにしておくのが礼儀だと思います。
チャイナタウンに泊まるのは不便じゃない?
MRTワットマンコン駅が徒歩圏にできてからは、まったく不便ではなくなりました。ブルーラインは環状線なのでシーロムにもスクンビット方面にも出やすく、屋台とグルメの密度で言えばバンコク屈指のエリアです。
W22ブラサリはどんな人に向く?
建物や街の歴史に興味がある人、ヤワラートの食べ歩きを拠点から徒歩で完結させたい人に向きます。逆に、広い部屋・バスタブ・プールを求める人には向きません。設備で選ぶホテルではなく、場所と建物で選ぶホテルです。
ジュライサークルは、まだ復活の途中にある
この記事のまとめ
台北大旅社がW22ブラサリとして生き返り、MRTワットマンコン駅ができて、ジュライサークルは「行きにくい過去の街」から「歩いて楽しめる街」に変わりました。それでもジュライホテルの廃墟は残ったまま。この中途半端さこそが今のこの界隈の面白さで、泊まってみる価値があると思っています。
新駅ができて人の流れが変わった以上、宿の需要もこれから増えていくはずです。放ったらかしになっているジュライホテルが、台北大旅社のように生まれ変わる日が来るかもしれない。そう思わせるくらいには、この数年でこの界隈は動きました。
バンコクでどのエリアに泊まるか迷っている人はバンコクのホテル選びの記事を、旅の予算感を先に固めたい人はタイ旅行の予算の記事をあわせてどうぞ。次にヤワラートへ行くときは、屋上でもう一杯やりながら、この街がどこまで変わったか確かめてこようと思います。





